きび団子

生まれはレノアの片田舎です。小さな村で。よくある田舎の……ちょっと閉鎖的な村で生まれ育ちました。

村の子供はみな小さな頃から家の仕事をするのが当たり前で、私も幼い弟妹の世話をしたり、料理を作ったり、洋服を繕ったりして毎日忙しくしていました。学校? もちろんありません。計算だの文字だのを習う必要もありませんし、生きていく上で必要なことはすべて両親が教えてくれましたから、学校へ行きたいなどとも思いませんでした。都会の子は行くのかもしれないけれど、限られた情報しかない村の中ですから、そんな事すら知らずに育ちました。

学校とは違うけれど、子供たちが集まって遊んだりする場所がありました。仕事もあって忙しいのですが、暖かな昼下がりなどに村の子供たちが自然と集まり、おしゃべりをしたり、遊んだりして過ごすのです。それはとても楽しい一時で、私も大好きな時間でした。

「彼」はそこにいたのです。

村の子には違いありませんでしたが、親は分かりませんでした。老いた夫婦が育てていましたが、その孫とも限らないようでした。まあ私たち子供にはそういった大人の事情は関係のないことです。私たちはみんな「彼」が大好きでした。

彼はとても元気で、強く、子供たちのリーダーでした。男の子たちはよく喧嘩もしましたが、最後に勝つのはいつも彼でしたし、彼には何とも言えない迫力と魅力があって、誰もがそれを認めていました。

ただ、大人たちは彼を嫌っていたようでした。その出生や育ちに何かあったのでしょうか。村の大人たちは余所者を嫌い、その人がどこのどういう生まれで、誰の子で、どういう育ちなのか、というような事をよく気にしていました。それとも、私たちがよく彼を先頭にいたずらをしたりしたからでしょうか。確かに彼は暴れん坊でしたし、大人の言う事など耳も貸そうとしませんでした。そういうところが彼の自由なところでもあり、私たちが憧れる部分でもあったのですが。

ともあれ、大人たちは彼を受け入れようとしませんでした。私たちが子供同士で遊ばなくなり、それぞれに大人になって、仕事をするようになっても、彼には仕事がありませんでした。老夫婦は細々と自給自足していて、彼は生きていくためにも村で仕事を探していたのだろうと思うのですが、いつ会っても遊び歩いていて、それでいてつまらなそうなのでした。

その頃、村では一つの悩みを抱えていました。いくつもの畑が荒らされたり、盗人が村のものを盗んだり、そういった事件が相次いでいたのです。ほとんど毎月のように事件が起きていました。どうやら大規模な盗賊団が村の近くに居を構えたようだ、という情報がもたらされました。村の青年団が戦いを挑むとか、領主さまに兵士の救援を頼むとか、色々な話し合いがありましたが、その間にも被害は拡大していきました。

ある時のことです。彼の姿が突然村から消えました。老夫婦は黙して語らず、誰も彼がどこへ行ったか分からないまま。子供のころの仲間も、誰一人その行方を知りません。私も、何も聞いてはいませんでした。

彼が、これまた唐突に帰ってきたのは、それから一年ほど経ってからでした。そしてそれと同時に、盗賊団による事件は起こらなくなりました。そう、彼が事件を解決してきたのです。

事件解決のために旅立った事。盗賊団の一人が仲間に入り、盗賊団の情報が手に入った事。さらに二人の強力な用心棒を雇った事。四人で砦の内部に入り込んで首領を殺し、盗賊団にはこの地を去ると言わせた事。そして、盗まれたものを取り返した事。

彼は大げさにしなかったけれど、それはまさしく大冒険でした。飄々と「自分に出来る事をしたまでだ」と言う彼は、やはり私たち仲間の憧れであり、誇りです。

事件後、彼は再び村を出て行きました。育ての親の老婆が作ってくれた、きび団子を持って。

「一番役に立ったのは、やっぱりこれだからな」

にやにやと笑う彼の後ろには、照れくさそうに笑う三人の男たちがついていました。

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